金融所得課税は、株式の譲渡益や配当金といった金融所得に対して適用される課税制度を指します。他の所得と比較して低税率なため、「資産家に対する優遇だ」と批判を浴びてきましたが、このほど自民党総裁に選出された岸田文雄氏は税率を引き上げる方針を当初は示していたなど(後に撤回)、今後の議論の行方が気になるところです。
財産の生前対策として売却するかどうかの判断に関係する可能性もあります。キーワード「金融所得課税」についてご紹介します。(税理士新聞1715号・1712号)
1.所得と所得税
所得は給与や不動産、事業などその性質によって10種類あり、合算して税額を計算するのが原則です。所得が多いほど税率が上がる累進課税が適用されており、課税所得4千万円以上になると最高税率の55%となります(住民税を含む)。
2.金融所得と税金
例外的に他の所得と分けて課税されるのが、株式譲渡益や配当金などの金融所得です。税率は一律20%(所得税15%、住民税5%)になっており、資産家の所得に占める金融所得の割合が高ければ高いほど税の負担割合が低くなる「逆累進」の特色があります。
財務省によれば、2019年時点で所得が5千万円超~1億円の層の所得税負担率は27.9%ですが、20億円超~50億円の層だと18.9%に下がっており、多くの金融資産を保有する富裕層に対して恩恵が大きくなっていることが分かります。
資産家優遇税制として批判を浴びてきたにもかかわらず見直しが進んでこなかった背景には、むやみに税率を上げれば投資家が海外市場へ転出する可能性があるという、株式市場への配慮があります。
先の岸田文雄氏の発言に先立って、高市早苗元総務相は「金融所得増税は必要」と月刊誌のインタビューで発言しています(9月3日)。自民党総裁選出馬を見据えて自身が提唱する経済政策を発表し、「金融所得課税は増税させていただきたい」と述べました。
株やFXなどを活用して得る金融所得は税率が一律2割程度となっており、他の所得と分けて税額を計算する分離課税が適用されることから累進課税になりません。
資産が多ければ多いほど他の収入と比較して税負担が低く抑えられることから、富裕層向けの優遇税制と批判して総合課税化を求める声はこれまでも上がっていました。高市氏はマイナンバーを活用して個人の金融所得を割り出し、一定以上の所得がある場合には税率を引き上げる案を提示しています。
2-1.資産形成を促すべき
岸田文雄首相が公約である金融所得の課税強化を先送りしたことについて、日本証券業協会会長の森田敏夫氏は「首相が冷静な判断を示され安堵している。貯蓄から資産形成を促すことが国家的な課題だ」と会見で述べました。(2021年10月20日)
日本の所得税は原則として累進課税が適用されていますが、株式配当など金融所得の税率は一律20%であり、金融資産が多い富裕層ほど実質的な税率が下がります。岸田首相は所得再分配政策の一環として課税強化を打ち出していましたが、株式机上への影響が顕在化したため当面の撤回を決めました。
森田氏は日本の高齢化が進むなかで「高齢者には給与収入がなくなるため、金融所得の重みが増す」と主張しました。(税理士新聞第1717号)
3.生前対策に与える影響
相続財産に株や有価証券が含まれるケースでは、生前に売却しておいた方が良いのかどうか判断に悩む方も多くいらっしゃいます。どんな税率であっても、被相続人の財産総額や相続人の数によって最善となる策は異なってきます。お悩みの方は「生前対策シミュレーション」をご活用ください。じっくりお話を伺った上で、節税や納税資金の確保といったお客様のご状況に合わせたプランをご提案いたします。
また、すでに相続が発生してしまった方については、相続株式の調査方法や名義変更、売却方法を詳しく解説した以下のコラムをご参考ください。
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