配偶者が亡くなっても、義両親や義兄弟とは「姻族」という関係が続いています。この姻族を終了させる「姻族関係終了届」について解説を行います。
姻族関係終了届とは
婚姻すると、夫婦は互いの親族と「姻族」という関係になります。「姻族関係終了届」とは、この「姻族」という関係を消滅させるための手続きです。姻族関係は、離婚をすれば自然に消滅します。
ところが夫婦の一方が亡くなってしまった場合、生存している配偶者と義両親などとの間に生じた姻族関係は、自然には消滅しません。
生存している配偶者が、旧姓に戻ったとしても同じです。
そこで「姻族関係終了届」を提出することによって、夫(妻)を亡くした配偶者が、夫(妻)の両親などとの姻族関係を消滅させることができます。
そもそも「姻族」になると何が変わるの?
一定範囲の「姻族」は、法律上の「親族」となります。
法律上の親族とは、
・六親等内の血族
・配偶者
・三親等内の姻族
三親等内の姻族とは、配偶者の三親等内の親族のことです。
その範囲は下記となります。
・父母、祖父母、曾祖父母、伯父母
・子、孫、曾孫
・兄弟姉妹、甥、姪
つまり婚姻すると、配偶者側のこれだけの姻族が、自身の法律上の親族になるということです。そして一定の親族は、互いに扶養義務を負うことがあります。
姻族関係終了届に相手の承諾は必要?
姻族関係終了届には、義両親などの承諾が必要となるのでしょうか? 姻族関係を終了させるための手続きには、民法第728条第2項に規定があります。
民法第728条第2項
“夫婦の一方が死亡した場合において、生存配偶者が姻族関係を終了させる意思を表示したときも、前項と同様とする”
「前項」とは、姻族関係が終了することを意味しています。そして、この項を受けた戸籍法第96条は次のようになっています。
戸籍法第96条
“(省略)姻族関係を終了させる意思表示をしようとする者は、死亡した配偶者の氏名、本籍及び死亡の年月日を届書に記載して、その旨を届け出なければならない”
つまり姻族関係の終了は、夫や妻を亡くした配偶者の意思表示のみで行うことができます。義両親など、相手の承諾は不要です。
ただし意思表示を行うには、書面による届け出が必要ですので、「姻族関係終了届」を記載し、市役所に提出することとなります。
姻族関係終了届で姓は戻らない
姻族関係終了届は、姻族関係を消滅させる手続きです。婚姻によって相手の姓になった人が、姻族関係終了届によって旧姓に戻るわけではありません。
もし「旧姓に戻したい」という希望があるときは、別途「復氏届」を提出する必要があります。
ただし「復氏届」で改姓できるのは、生存している配偶者のみです。子供の姓も変更したい場合は、家庭裁判所で「子の氏の変更許可」を受けたのち、入籍届を行う必要があります。
姻族関係終了届のメリット
姻族関係終了届を提出することのメリットをご紹介します。
法律上の扶養義務から解放される
直系血族(親や子など)や兄弟姉妹には、法律上、お互いを扶養する義務がありますが、特別の事情があるとき、家庭裁判所は、「三親等内の親族」にも扶養義務を負わせることができることになっています。
三親等内の親族には、三親等内の姻族も含まれます。
もちろん、何らかの事情がなければ、姻族に対して直ちに扶養義務が生じるような話にはならないのですが、配偶者を亡くした上にこのような責任を負う可能性があることは、心理的な負担になることもあるでしょう。
義両親らとの関係が良好でなければなおさらです。
姻族関係終了届を提出すれば、こうした責任を負う状況を避けることができます。
相続権や遺族年金には影響がない
姻族関係終了届を提出すると、遺族年金や相続した財産はどうなってしまうのかという不安が生じることと思います。
しかし姻族関係終了届は、配偶者との関係に影響を与えるものではないため、配偶者からの相続権や遺族年金の受給権に影響はありません。
したがって姻族関係終了届を提出しても、相続した財産を返還する必要はなく、遺族年金の受給も続けることができます。
姻族関係終了届のデメリット
姻族関係終了届を提出することには、デメリットもあります。
子どもは義両親の相続人
生存している配偶者は、義両親の血族ではないため、義両親の財産に対する相続権はありません。姻族関係終了届を提出してもしなくても、変わらないことです。
ところが子供は、義両親の直系血族であるため、代襲相続によって義両親の相続人になります。
代襲相続とは、親が亡くなった時にその子供が先に亡くなっていた場合、その子供(孫)に相続権が移ることです。そのため、義両親が亡くなったときは、相続の関係で連絡を受けることになるでしょう。
ちなみに財産を相続するには、相続人が話し合いで財産の分配を決める遺産分割協議が行われるケースが多いです。
姻族関係終了届を提出していると、こうした話し合いの場で子供が気まずい思いをすることもあるかも知れません。
子どもの心情への配慮も必要
姻族関係終了届を提出すると、義両親と他人になるということです。子どもにとって、親を亡くした上におじいちゃんやおばあちゃんと疎遠になる、会えなくなるとなれば、その心情に配慮が必要です。
子どもがいる場合の姻族関係終了届は、子どもの年齢や祖父母との関係性を考慮し、慎重な検討が必要です。
終了させた姻族関係を戻すことはできない
姻族関係終了届を提出し終了させた姻族関係は、それを復活させて元に戻すことはできません。
姻族関係終了届には提出期限はありませんので、一時的な感情で結論を出すのではなく、時間をかけて検討し、後悔のない結論を出してください。
4.婚姻関係終了届の必要な手続きについて
届け出に必要な手続きは、市区町村役場に用紙を提出するだけです。届出をした日から法律上の効力が発生します。
4.1.姻族関係終了届の提出方法
姻族関係終了届の提出場所、提出方法は次のとおりです。
提出場所 | 届出人(生存している配偶者)の本籍地又は居住地を管轄する市町村役場 |
提出方法 | 必要書類を窓口の時間内に持ち込むか郵送する |
提出期限 | なし |
なお、復氏届(旧姓に戻す手続き)も、同じ提出先で手続きが可能です。
必要書類
必要書類 | 備考 |
姻族関係終了届 | 窓口で交付を受けるか、提出先の役場のHPなどからダウンロードして入手 |
配偶者の戸籍全部事項証明書(戸籍謄本) | 配偶者の死亡がわかるもの |
届出人の印鑑 | 生存している配偶者の印鑑 |
配偶者の戸籍全部事項証明書(戸籍謄本)は、本籍地が届出先の役所の管轄である場合、用意しなくてよいとする役場が多いです。詳細は、提出先の役場に確認しましょう。
4.2.姻族関係終了後の戸籍の記載
姻族関係終了届を提出すると戸籍には「姻族関係終了」と記載されます。
このままでは亡くなった夫の戸籍に入ったままですが、婚姻前の氏に戻すために複氏届を提出した場合には、戸籍が変わるため、複氏届を出した後の戸籍には姻族関係終了の記載はありません。
5.姻族関係終了届に関する注意点
5.1.姻族関係終了届の届出人条件
姻族関係終了届の届出人になれるのは、夫や妻を亡くして生存している配偶者です。
よく誤解されやすいのが、「亡くなった人の親族からも届け出ができるのでは?」ということですが、亡くなった方の親族は届出人になれません。
5.2.姻族関係終了届だけでは相続破棄にはならない
生存している配偶者は相続権を有しており、姻族関係終了届だけでは相続破棄をしたことにはなりません。
日本クレアス税理士法人
執行役員 税理士 中川義敬
2007年 税理士登録(近畿税理士会)、2009年に日本クレアス税理士法人入社。東証一部上場企業から中小企業・医院の税務相談、税務申告対応、医院開業コンサルティング、組織再編コンサルティング、相続・事業承継コンサルティング、経理アウトソーシング決算早期化等に従事。事業承継・相続対策などのご相談に関しては、個々の状況に合わせた対応により「円滑な事業承継」、「争続にならない相続」のアドバイスを行う税理士として定評がある。(プロフィールページ)
・執筆実績:「預貯金債券の仮払い制度」「贈与税の配偶者控除の改正」等
・セミナー実績:「クリニックの為の医院経営セミナー~クリニックの相続税・事業承継対策・承継で発生する税務のポイント」「事業承継対策セミナー~事業承継に必要な自己株式対策とは~」等多数
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