相続が起きるということは人が亡くなるということですから、日本の風習として故人を供養するための祭祀を執り行うことになります。
「祭祀(さいし)」とは、神や祖先をお祭りする儀式のことを言います。そのために用いられる財産は、他の相続財産や相続税との関係で少し特別な扱いをすることになります。
祭祀に用いられる財産を総称して「祭祀財産」といいますが、今回はこの祭祀財産の法的な扱いについて解説します。
目次 |
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1.祭祀財産とは? |
祭祀財産とは?
法的な意味の祭祀財産については民法という法律に取り決められており、その中では祭祀財産を「系譜」「祭具」「墳墓」として挙げています。
一般的な用語に当てはめると、系譜とは家系図など血縁の関係が記された記録物、祭具は仏壇仏具、位牌、神棚など、墳墓とは故人の遺骨を納めるための設備、つまりお墓や墓地のことを指します。
これら祭祀財産は通常の相続財産とは切り離され、祭祀承継者という特定の一人に引き継がれることになります。
この祭祀承継者の選出方法は3つ定められていて、まず被相続人の指定があればこれが最優先します。指定の方法は決められておらず、遺言書の他、生前の口頭での指定も有効です。
指定が無ければ次にその地域の慣習に従います。慣習もなければ最終的に家庭裁判所が関与して調停などで決めることになります。 なお、祭祀承継者は相続放棄をするなどして相続権がない者でもなることができます。
祭祀財産に相続税はかかるのか?
祭祀財産は他の通常の相続財産とは切り離して扱われ、原則として相続税はかかりません。
仏壇や仏具など、故人を弔うための道具類に課税されるというのは、人として心情的につらいものがあります。 そのため国民感情に配慮し、原則として課税対象から外すことにしているのです。
ですから仮に相続人の一人が祭祀承継者となり祭祀財産を受け継いだとしても、祭祀財産分の相続財産が増えて税負担が上がってしまうようなことはありません。
さて、先祖を祭るために使われる位牌や墓地、仏壇などを指す「祭祀財産(さいしざいさん)」は原則として相続財産としては扱われず、相続税がかかりません。しかし、だからと言って気軽に相続税対策のために購入をしてしまってはなりません。
これ以外にも祭祀財産の承継にあたっていくつかのポイントがあります。以下の記事で見ていきましょう。
祭祀財産の承継の注意点
原則として相続財産とはならず、相続税の負担もかからない祭祀財産ですが、これを利用して不当に相続税逃れを画策する者もいないとは限りません。
そこで税務当局では実情を見て、例えは不必要に広大な墓地であったり、社会通念上の常識を超えるような高額の価値が認められるものについては課税対象として認定する可能性もあるので注意が必要です。 また祭祀承継者に指定された者は、これを拒否することができないことも知っておく必要があります。 |
その代り、実際に祭祀の儀式を執り行ったり、祭祀財産を守り続けなければならない法的な義務はないとされています。
祭祀承継者という立場の受任は拒否できないけれども、実務まで強制してしまうと酷だということで、調整を図っている形です。 また祭祀財産の扱いについても決定権があるので、祭祀承継者は故人(被相続人)の相続以後、祭祀財産を処分することもできてしまいます。
これはすなわち、祭祀承継者を指定する被相続人も「しっかりと墓を守ってくれるか」ということを真剣に考えて指定する必要があることを意味しています。
祭祀財産はいつ購入すべきか?
上の項で、祭祀財産は他の相続財産とは切り離されるので、相続税がかからないとお話しましたが、この性質を活用して相続税対策を行うことも可能です。
節税の視点で見ると、お墓や仏壇仏具などの祭祀財産は、被相続人となる者が生前に購入しておくのがお薦めです。
祭祀財産の中でも墓地やお墓などは一般的に数十万円、数百万円と高額になります。 これを被相続人となる者が生前に自ら費用負担して購入すれば、その分遺産総額を圧縮し減らすことができます。
相続が起きた後に相続人等が祭祀財産を購入するとその分赤字になってしまいますし、計算上遺産額を減らすことができる債務控除に算入することもできません。
従って、祭祀財産は被相続人となる者が生前に購入しておくことが節税の面では有効です。
ただし、生前に購入したとしてもその代金を支払っていない場合、相続税の計算上有利に働く債務控除に算入することはできません。ですから未払い金とならないように、購入代金は生前に全て清算しておくようにしましょう。
まとめ
今回は相続に際して特別な扱いを受ける「祭祀財産」について見てきました。
その性質上、他の通常の相続財産と切り離して処理される祭祀財産は、国民感情への配慮から原則として相続税を課税されることはありません。
加えて、被相続人となる方が生前に購入することで将来の遺産額を減らし、節税に繋げることもできます。
祭祀財産を承継することになる人は第一優先順位として被相続人の指定する者が挙げられていますが、法的にどのような扱いになるのかを知っている人はあまり多くないかもしれません。
承継人としての立場はある意味強制することができますが、実務まで強要することはできないことを留意しておく必要があります。自主的にしっかりとお墓や家系図、祭祀道具などを守っていってくれる人かどうか、選定にあたっては良く考える必要がありますね。
日本クレアス税理士法人
執行役員 税理士 中川義敬
2007年 税理士登録(近畿税理士会)、2009年に日本クレアス税理士法人入社。東証一部上場企業から中小企業・医院の税務相談、税務申告対応、医院開業コンサルティング、組織再編コンサルティング、相続・事業承継コンサルティング、経理アウトソーシング決算早期化等に従事。事業承継・相続対策などのご相談に関しては、個々の状況に合わせた対応により「円滑な事業承継」、「争続にならない相続」のアドバイスを行う税理士として定評がある。(プロフィールページ)
・執筆実績:「預貯金債券の仮払い制度」「贈与税の配偶者控除の改正」等
・セミナー実績:「クリニックの為の医院経営セミナー~クリニックの相続税・事業承継対策・承継で発生する税務のポイント」「事業承継対策セミナー~事業承継に必要な自己株式対策とは~」等多数
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