相続をするから相続税を支払わなくてはいけないと考えたとき、相続財産はあるけどお葬式の費用はかかるし、借金もあるぞ!と思いつくこともあります。
相続のケースでは、相続財産だけではなく、お葬式の費用や借金のように相続財産から差し引くことのできるものがあるケースも多いのです。相続財産から差し引くことのできるものの金額が多いときには、相続対策で相続税を考えるときにも考慮しなければなりません。
今回は、相続財産から控除することのできる債務について解説をします。
目次 |
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1.そもそも相続財産から債務を差し引くことができるのか? |
1.そもそも相続財産から債務を差し引くことができるのか?
被相続人が亡くなり相続が開始されると、相続人は、原則として被相続人の全ての権利義務を引き継ぐことになります。このことを法律用語で「包括承継」とよびます。相続人が何人かいる場合には、遺産分割が確定するまで全ての権利義務を共同で引き継ぐことになります。
この権利義務には、財産だけではなく債務も含まれます。財産がプラスの財産、債務はマイナスの財産と考えるとわかりやすいのではないのでしょうか。
ただし、被相続人の全ての権利義務を引き継ぐことになるといっても、被相続人が雇用されていた場合の地位や、被相続人が借りていたものについての借主としての地位については引き継ぐことができません。これは、その人以外が引き継ぐのは適当ではないものだからです。このようなものを「一身に専属する権利義務」とよびます。
法律で決められていないものでも、公営住宅の使用権、親権者の地位、画家である被相続人が約束した絵を描く約束なども引き継ぐことができないと解釈されています。
2.相続財産から差し引くことのできる債務には何があるのか?
(1)相続財産から差し引ける債務
相続財産から差し引くことのできる債務は、亡くなった人の債務の中で、亡くなったときに確実に存在すると認められるもののみです。亡くなった時点で債務が確定していないものは、相続財産から差し引くことはできません。
なお、被相続人に課される税金で、被相続人が死亡した後に、相続人などが納付することになった所得税などの税金については、被相続人が亡くなった時点では確定していませんが、相続財産から差し引くことができます。
ただし、この被相続人の所得税などの納付が、相続人の責任で遅れた場合の延滞税や加算税については、相続人の責任になりますので相続財産からは差し引くことができません。 次のような債務が、相続財産から差し引くことのできる金銭債務の例としてあげられます。
- 金融機関や個人からの借入金、未払いの利息
- 亡くなった後に支払期限のくる所得税、住民税、固定資産税などの税金
- 亡くなった方が入院していた場合などで医療費が未払いになっている場合、未払いの医療費
- 亡くなった方が使用していた水道光熱費や電話代などの公共料金
注意しなければならないのが、連帯債務や保証債務です。
連帯債務や保証債務を負う人が亡くなった場合には、相続した人が連帯債務や保証債務も引き継ぐと考えられ、これを引き継がないようにするには相続放棄の手続きをする必要があります。
連帯債務や保証債務の取扱いには慎重にならなければなりませんので、連帯債務や保証債務が相続時にあると分かったときには、相続の専門家である税理士などに相談することをおすすめします。
(2)葬式費用
お葬式の費用は、亡くなった方の債務ではありませんが、相続税の計算上は相続財産から差し引くことができます。
さて、ここまで相続財産から「差し引くことのできる」債務について解説してきました。一方、債務には相続財産から差し引くことのできない債務もありますので、ここからの記事で確認をしていきましょう。
3.相続財産から差し引けない債務について
(1)被相続人に固有の債務
債務の性質上、被相続人のみ<の債務と考えられる一身に専属する義務については、相続財産から差し引くことができません。これは、その人のみに帰属すると考えられるので、他の人が債務を負うことが成立しないと考えられるからです。
たとえば親権者の地位や、扶養義務者の地位に基づく義務から発生したものについては、相続財産から差し引くことができません。離婚した場合の財産分与をする義務についても、扶養的な要素のある部分については、相続財産から差し引くことはできません。
(2)非課税財産に該当する債務
被相続人が生前に購入したお墓の未払代金などは、相続財産から差し引くことはできません。
お墓は非課税財産ですので、もともと税金がかからないものと考えられるので、相続税の計算についても考慮すべきではないと考えられるからです。
どのような資産が非課税財産に該当するのかも、専門家でない人が判断するのが難しいですので、税金の専門家である税理士に相談して判断をしてもらうのがよいでしょう。
4.債務、葬式費用を相続財産から差し引くことが出来る人は誰なのか?
債務などを相続財産から差し引くことのできるのは、その債務を負担することになる相続人と包括受遺者です。
包括受遺者とは、遺言によって遺産の全部またはその一部を割合によって与えられた人です。遺贈と相続の違いについてはコラム「遺贈とは?相続との違い、メリット・デメリットを解説」をご参考ください。
5.まとめ
相続財産から差し引くことのできるものは、特定の種類の債務とお葬式の費用です。
たくさん債務があったほうが相続税が安くなると思って闇雲に引けばよいわけではありません。債務の中にも、差し引くできるものと差し引くことのができないものがあるので、慎重に判断していく必要があります。
また、相続発生時に気をつけたいのが、連帯債務や連帯保証がある場合です。
これらは、債務ではありますが主たる債務者が返済できなくなるまでは請求がくるわけではないので、連帯債務や連帯保証があることに気づかない場合もあります。
また、被相続人自身が借りたお金ではないので、債務がいくらになるのか予想がつきません。連帯債務や連帯保証があり金額が大きくなりそうな場合には、相続放棄の手続きをとるなど対策をしなければならないときがあります。
相続時の債務の取扱いは税額に影響を与えるために慎重にならなければなりませんし、相続すると借金を引き継ぐことになるために、どれだけの債務があるのかもしっかりと把握しなければなりません。
被相続人に債務がある場合には不安になることも多いと思いますが、信頼できる相続の専門家である税理士に相談すれば、どのような点に気を付けなければならないかアドバイスを受けることができますので、相続税に詳しい税理士に相談することをおすすめいたします。
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