相続は、現預金をはじめとした「資産」を次世代に移す手続きを指します。ただ、移すのは資産だけとは限りません。「負債」も、次世代は原則受け取らなければなりません。
よくテレビのサスペンスなどで、「親の借金を返済するために…」という言葉があります。親の借金を子どもが返済しない方法はあるのでしょうか。
実は、2つの方法が存在します。「相続放棄(そうぞくほうき)」と「限定承認(げんていしょうにん)」です。
なお、本記事では借金のことを「借入金」、相続を受ける子どもを「相続人」と記載します。同じ意味と考えて読み進めてください。
相続人が知らない借入金とは?
相続人が借入金を知らないことはあるのでしょうか。借入金として主なものは2つあります。連帯保証人と、会社経営で発生する借入金です。
連帯保証人
親自身が借入金の返済債務を抱えていなくても、友人の連帯保証人になっていた場合、その友人が返済不可と判断されれば、連帯保証人に返済義務が生じます。
相続の際、相続人は本来の債務者(友人)に返済の請求をすることはできますが、そこで返済できるようであれば親が支払うこともないでしょう。この債務は相続人に引き継がれることになります。
経営する会社への借入金
親が経営者の場合、会社で金融機関などから借入している場合があります。親が亡くなって子が経営にタッチしていなくても、この借入金は親自身を「担保」としているものが多いです。
つまり、会社に返済能力がなくなった場合は、親が個人として支払わなくてはなりません。この債務も相続人が引き継ぎます。
相続放棄(そうぞくほうき)について
この負債について、相続人は引き継ぐ義務があります。ただし、相続の開始日から「3カ月以内」に、「相続を引き継がない」と表明することができます。
これが「相続放棄(そうぞくほうき)」です。
相続放棄をする相続人には、はじめから相続人にならなかったとみなされます。
具体的には、3カ月以内に家庭裁判所に「相続放棄申述書」を提出する必要があります。提出後およそ1週間で「相続放棄の申述についての照会書」が返ってきます。ここにあるいくつかの質問を回答として返送すると、「相続放棄申述受理証明書」が郵送されてきます。この証書をもって認められたことになります。
相続放棄の手続きが慎重に行われる意味
さて、相続放棄の手続きが面倒と感じられたでしょうか。
相続放棄は相続人の財産権に関わる重要事項のため、何回もの手続きが必要です。また、相続放棄は資産の受取権を「拒否」するものであるため、他人の悪用が十分に考えられます。それは絶対に防止しなければなりません。
悪用を防止するためにも、慎重な手続きが求められているのです。 ではマイナスの財産の相続には、全て相続する、もしくは相続放棄する、の選択肢しかないのでしょうか?
実は、「プラスの財産の分だけ限定的にマイナスの財産を相続する」という方法があります。それが限定承認(げんていしょうにん)です。
「プラスの財産の範囲内で債務を引き継ぐ」方法、限定承認(げんていしょうにん)について説明をしていきます。
相続人が借入金を「返す」とき
さて、相続放棄をしない相続人はいるのでしょうか?筆者も実務家として仕事をする前は、「相続資産がマイナスならばみんな相続放棄をすればいい。負債は相続人が原因ではない」と考えていました。
ただ、実際に相談に乗ってみると、親が長年お世話になった地元の金融機関や、知人からお金を借りている場合があります。
このときに相続人には、「全額返すことはできないけれど、他の財産分の範囲に限定して負債を引き受ける」という形の相続をすることができます。これを「限定承認」といいます。
限定承認(げんていしょうにん)について
限定承認も相続放棄と同じく、相続開始時から3カ月以内の表明が必要です。上記のような理由で財産(資産・負債)を引き継ぐ時は、限定承認を活用すると良いでしょう。
また、「資産と負債の額が定かではなく、資産の範囲内で負債を受けたい」という場合は、予め「限定承認申述書」を提出しておく必要があります。この手続きをしておくと、プラスの財産の範囲内でマイナスの財産を受け取ることが可能です。
相続人が複数いる場合の注意点
相続人が複数の場合は、相続の計算もとても複雑です。相続は、相続人の数によって控除される「基礎控除」の額が変わります
相続税基礎控除=3,000万円+法定相続人数×600万円
また、「みなし相続財産」と言われるものもあります。 これは、亡くなった親の支払者、相続人を受取人とした終身保険や、相続前3年以内の贈与財産などです。
相続人が全員集まらず、とても時間が足りないケースもあるでしょう。相続人が複数の場合、相続開始後3カ月以内にこれらの把握が追いつかないことがあります。「なんとなく負債がありそう」という場合もあるでしょう。
それらは限定承認をして、プラスの分だけ負債を支払う旨を表明しておく必要があります。
まとめ…消極財産(マイナスの財産)の注意点
相続に負債がある場合、対策としての相続放棄および限定承認についてお伝えしました。
相続開始後、最も重要なのは「3カ月」というタイトなスケジュールです。特に消極財産(マイナスの財産)がある場合、この対応はとても大切です。
この期間に相続放棄や限定承認が必要か、それとも表明のいらいない「単純承認」でいいのかを判断しないと、親世代の借入金を引き継いでしまうおそれがあります。親の亡くなった直後は悲しみの只中ですが、この部分だけは迅速に、かつ正確に手続きを進めていくことが必要です。
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